葉桜も目立つようになってきましたが、まだまだ朝夕は寒い日も多いですね。やさしいデザインは2017年春設立、今年で5回目の春になります。昨年はコロナ禍であまり多くの活動は出来ませんでしたが、先日非常事態宣言解除の折ひさびさに皆で集まりコロナ禍以降の活動を話し合いました。まだ具体的に発表できることは無いのですが、一歩ずつでも出来ることを進めていこうと思います。

さて私のコラムではチラシデザインの基本的な考え方など、デザインに不慣れな方に少しでも役に立つようなコラムを書くよう心がけてきましたが、今回から数回は書体についてのお話をしようと思います。

フォントと書体

みなさんは「フォント」と「書体」の違いがおわかりでしょうか?現在フォントと書体を混同して使われていることが多いのですが、実はフォントとはパソコンやネット上で使用されるデジタルデータとしての書体を指すもので、書体のひとつの形態に過ぎないのです。

30年以上前私がデザインの仕事を始めた頃は、印刷物の制作で使用する文字は写植(写真植字)というものが使われていました。写植では、書体毎に漢字とひらがな、カタカナが揃ったネガフィルムの様な原板を使用します。原板はとても高価なもので、デザイナー個人が所有するには難しく、そのため数十~数百の種類の書体の原板を持つ写植の専門店がありました。デザイナーによる書体、大きさなどの指示に基づいて、店側は書体の原板から印画紙に文字を焼き移して複製し、デザイナーはひと文字数十~数百円を支払ってそれを手に入れるわけです。あたかも写真をネガフィルムから複製プリントするような仕組みなので写真植字という呼称だったんですね。

その後、コンピューターが発達、安価になり、個人がコンピュータを所有する時代が訪れました。デザイナーもパソコン上でデザインを行うようになり、デザイン制作のために各々がモニター画面上に書体を表示する必要性も生まれてきました。また書体もデジタルデータに置き換えられ、比較的安価に頒布出来るようになったため、現在のように多くの種類の書体を各々が所有する時代になったのです。(写植専門店のほとんどが店じまいをしてしまいました)

フォントは、パソコンの進化によりデスクトップパブリッシングが一般化されると同時に普及した書体の一形態です。書体は、あるルールに基づいた一揃えの文字、手書き文字や活字を含む広い範囲を指しますが、その中でデジタルデータ化したものをフォントと呼ぶと考えて概ね間違いは無いと思います。ただ現代では、流通している書体のほとんどがデジタルデータですから、書体≒フォントという認識もやむなしという感じですね。

明朝体とゴシック体

書体は大別して明朝体とゴシック体にわかれます。

明朝体は線の太さが不均一なもの、毛筆で書いた書のようにひとつの文字のなかに細い線と太い線がリズミカルに変化をするものです。逆にゴシック体は線の太さがほぼ均一なものになります。もちろんゴシック体の仲間であっても完全にどこを計っても全く線の太さが均一なものは少なく、若干の変化はありますが、明朝体に比べるとその変化は乏しくなります。以下にサンプルの3書体を掲載しますのでご覧下さい。

上から明朝体の「リュウミン」、真ん中はゴシック体の「太ゴ」、一番下はゴシック体の中でも比較的新しい書体の「新ゴ」です。下へ行くほど文字を構成する線の太さが均一になっているのがわかります。またどの書体もひらがなは漢字に比べてひとまわり小さいのですが、その漢字とひらがなの大小の差が下の書体ほど少なくなっています。

明朝体はひとつの文字のなかの線の太さの変化、ある文字と他の文字との大きさの変化が大きいためリズミカルな書体だと言えます。リズミカルな書体は各々の文字の判読がしやすいので、読みやすい書体、可読性の高い書体です。ゴシック体は明朝体に比べると変化が少ないので、安定性の高い書体だと言えます。読みやすさは明朝体に劣りますが、小さな文字でも見やすく、また整然としたレイアウトに向いています。

また明朝体は日本古来の縦組み(縦下方向に文字が続く)の方が横組み(横右方向に文字が続く)よりリズミカルに見え、さらに読みやすさが増します。そのため小説などの長文の場合は縦組みの明朝体を使用するのが理にかなっています。

英文書体の場合は、日本語書体の明朝体に当たるものをセリフ体(ローマン体)と呼びます。セリフとは線の端にある装飾を指します。ゴシック体はサンセリフ体(ゴシック体)と呼びます。サンとは仏語で「無い」という意で、セリフが無い書体ということです。

さて、書体についていろんな事を書いてきましたが、これはあくまでも書体が与える基本的な印象です。例外的な使用法、個性的な考え方ももちろんありますので、迷った場合の参考程度に捉えていただいた方が良いと思います。今回は以上です。次回も引き続き書体のお話を書きたいと思います。