年の初めにひとつ決めたことがあります。コロナ禍で以前のように過ごせない毎日、空いてしまった時間を無為に過ごすだけではあまりにも勿体ない。今年は何かいままでやっていなかった事をはじめてみよう。ということで、まずパイロット社のペン習字という通信講座に申し込みました。以前から趣味で万年筆をいくつか集めていますので、これをこのまま飾っておくだけでは勿体ない、なにか良い方法はないかと思い立った次第です。この講座、最初にお手本が大量に送られてきてその中から毎月指示される文章を清書して送り、それが数週間後に添削されて送り返されてくるという仕組みです。

と、新春に意気揚々と始めたのですが、最初の数ヶ月は真面目に練習して送り返していたのが、現状では〆切ギリギリに急いで仕上げて送り返しているという体たらくで、送り返されてくる点数も情けない限りになってしまいました。ま、年間の料金は最初に払い込んでしまっているので、このペン習字はなんとかあと2/3年がんばってやり切るとして、で、前置きはこのぐらいにして今回の本題はシルクスクリーン印刷の話をしたいと思います。以前から挑戦してみたかったのですが、自分の学生時代の経験からシルクスクリーン印刷をするにはいくつかの設備やそれなりの大きさの空間(さらにお金)が必要だと思っていて、二の足を踏んでいたのです。ところが今回ネットでいろいろ調べてみて、自分が思っているよりも簡単にできる方法があることを見つけました。

シルクスクリーンとは孔版印刷の一種です。ある年代以上の方にとっては「プリントゴッコ」みたいなものと言えばピンとくるのではないでしょうか。プリントゴッコはこの孔版印刷を簡易的に家庭で楽しめるようにした商品です。シルクスクリーンは色を付けたい部分に穴が開いているメッシュ状の版(昔はシルクを使っていた)を使用します。素材の上に版を乗せて上からインクを引いてやると、穴が開いている所だけ版を抜けて下の素材にインクが移るという仕組みです。つまり孔版印刷は版の穴を通してインクを刷るという印刷方法です。他に木版画など版の出っ張った所にインクをのせて刷る凸版印刷、エッチングなど版を削った溝にインクを染みこませて刷る凹版などがあります。このシルクスクリーン、ひと昔前はTシャツや小ロットのポスターなどを印刷するのに重宝したのですが、インクジェットなどのオンデマンド印刷が発達した現在では、手間の掛かる少し高価な印刷手段という位置付けになってしまいました。

今回はネットで見つけた大阪のJAMさんが作っているスリマッカ(SURIMACCA)というシルクスクリーンキットを使います。JAMさんではそれだけでシルクスクリーンが楽しめる全て揃ったセットを6063円(税込)から通販されていますので、興味を持たれた方はそちらを購入してみてください。

まず製版ですが、これがここ数十年の一番大きな変化ですね。以前は製版といえば暗室や様々な設備が必要で、お金と時間と空間がそれなりに必要なプロセスだったのですが、現在はパソコンから製版機(家庭用のプリンタの少し大きなものぐらいのサイズ)にデータを転送すれば、瞬く間に版が出てくるという様に進化しています。パソコンからデータをプリントアウトするのと同じ感覚で製版が出来るわけです。

(pic1)

データはMacのアプリ、イラストレータで作成した物です。これをUSBメモリに入れてJAMさんへ持ち込みます。遠方の場合はデータを送信して、出力した版を送り返して貰うことも出来ます。(前掲のセットはこのデータを送って製版して貰う分のサービスも含まれています)製版だけをお願いする場合は一番小さいので880円(税込)、ハガキサイズぐらいの印刷が出来ます。今回はこのサイズを作りました。失敗を避けるために単純な原稿、私の事務所(hozdesign)のロゴを使います。

(pic2)

スリマッカは3つのパーツを組み合わせて様々なサイズの枠を組み上げることができます。

(pic3)

枠に版を張った状態です。

(pic4)

インクが枠と版との隙間に入ってしまわないように、マスキングテープを貼ります。この工程が無くても別に問題ないですが、こうしておけば版を洗う時断然楽です。

(pic5)

誰か版を押さえて貰える友達が居れば必要ないですが、暇な知人が見当たらなかったので刷り台を購入しました。ネットで1~3万円ぐらい。同じ商品でも値段がずいぶん違うので一生懸命探してみましょう。今回はエコバッグに印刷します。

(pic6)

商品として大量に作る場合はこんな手間を掛けるわけにいかないのですが、今回は一発勝負なのでエンピツで薄く位置決めをしました。

(pic7)

版面の上側にたっぷりとインクを置きます。右手前がスキージ、これを使って少し力をいれて押さえつけるように上側にのせたインクを下側へ引いていきます。(本当は刷っている途中も写真が写せれば良かったのですが、一人でやっているので、情報が少なく申し訳ありません)

(pic8)

完成です。

きれいに印刷するのはそんなに難しくないと思いますが、失敗しがちなのは刷った後の処理。失敗の原因で最も大きなものはインクが乾いて版の穴を塞いでしまうことですね。インクは容器から出した後どんどん乾いていきますから、刷り終わった後は速やかに版に残ったインクを水で洗い流さないといけません。スリマッカの専用インクは水性なので比較的処理が簡単なのですが、それでももたもたしていると版が駄目になってしまいます。複数印刷する時は出来るだけ手を止めず一気に刷ってしまうこと。どうしても時間が空いてしまいそうな時は一度版を洗浄した方が無難です。

(pic9)

私はAmazonでこういう蓄圧式のスプレーを1000円ぐらいで買いました。これで版に付いたインクを吹き飛ばします。結構役に立ちます。

近年デジタル技術が発達してなんでもかんでもパソコンやタブレット上で処理をし、それで完結する世の中になってしまいました。デザインという仕事も昔はペンやカッターやのりを使った工作に近い仕事でしたが、今は一日中マウスをカチカチしているような有様です。

スピード化・効率化は大切なことですが、コロナ禍により世の中が停滞しているいま改めて手作りで手間を掛けて物を作ることを考えてみるのも良いと思います。以前の時間の掛かる製版を新しい技術で短縮、その分絵作りや印刷などをしっかりと時間を掛けて楽しむ。技術の進歩により手作りがより簡単に身近になっていると思います。

版を洗うための適度な水場があれば狭いお家でも無理なく出来ますので、皆さんも是非挑戦してみてください。

JAMさん
https://jam-p.com